ドアの前で達也が財布を取り出し、中からカードキーを抜き取っている時、「達也…?」と瑞希が声を掛けたが、考え事に夢中な達也はそれに気付かない。

「私、やっぱり帰ります!」

瑞希にしては少し大きな声でそう言うと、ようやく気付いた達也は瑞希を振り向いた。

「え?」

「帰ります」

瑞希が、潤んだ瞳で達也を見上げていた。

「ど、どうして?」

(なんでコイツ、泣きそうな顔してんだ? あ、そうか。不安なんだよな?)

「心配すんなって。俺、おまえに変な事しないからさ」

達也が優しげに微笑んでそう言うと、瑞希は「え?」と言って不思議そうに達也を見つめた。