春田は帰り、達也は二人の鞄と買物袋を手に提げながら、マンションのエントランスに入るべく暗証番号を入力し、それを瑞希は物珍しげに見ていた。

「あの、私も持ちますから…」

「いや、全然大丈夫だから」

「でも…」

エントランスに入り、無言でエレベーターに向かう達也の後を、瑞希は所在なげにトボトボ着いて行った。


(春田先生が変な事言うから、俺まで意識しちゃうじゃねえかよ…
でも考えてみれば、家に男女が二人っきりで、しかも二晩も泊まるって、ヤバイよな、普通。
瑞希はどう思ってるんだろう。
とにかく、怖がらせないようにしてやんねえとな…)


エレベーターに乗り込み、5階に上がって達也の部屋の前に行くまでの間、達也は無言であれこれ考えていた。例えば…

(ベッドは瑞希に使わせて、俺はソファーで寝るべきだろうな…)

とか、そんな事を。