「いえ、金はずいぶん前に渡してあります。先月その金で1ヶ月も旅行行ってたらしいです。」

カズヤは左手で電球の揺れを抑えてテーブルのグラスを持った。
グラスは反射を繰り返し神々しく輝きを放ち、壁には大きな十字の影が映っている。

「1ヶ月って、今回の身代わりで雇ったわけじゃないのか。」

「末期だそうで。いつになったら人間は癌に勝てる日が来るんですかね」

「ほう。それでそれはお前の正義感なのか?」

「正義っちゃ正義すかね。
まあお互いが利用し合い、しかも誰も恨まれない。
みんなシアワセ。」

「それはオマエと金もらってパクられた奴だけの話だな。人間の生き死にに正義も何もない。」

神野はピスタチオの殻を細かく砕いてそれをパラパラとコンクリートへ降らせている。
カズヤもそれを眺めている。

「…。正義がどうとか言ったの神野さんなのに…。」

「まあいい。さて、仕事の準備あるから先に出るぞ。」

「お!いよいよですね。」