そして長女が「そうね。」と言い右手に持った枝で少女が抱く白い猫をつつきながら、さらに何かを言おうと口を開く瞬間、
━パンッ!
少女が長女の右の頬を平手で叩いた。
「な!!」
━パンッ!
少女の体が吹き飛んだ。
転がりながら少女は一瞬の出来事を理解していた。
見上げた先にあったのは夕紀の、母親の鬼の形相だった。
「アンタ何してんのよ!」
「奥様いけません。」
「恩を仇で返すつもり!?アンタかかえてどれだけ私が苦労したと思ってんの!!」
「奥様!!」
長谷川が怒鳴り、夕紀の腕をかかえてその場から引きずりながら言った。
「お嬢様も危険ですから一度中にお戻りください。」
長谷川に促された長女は持っていた枝を少女に投げつけて「ウジ虫!」と言って次女と渋々といった雰囲気で観音開きの扉へ向かい、夕紀は何かを叫びながら長谷川に引きずられるように連れていかれた。
白い猫だったものを抱きかかえる少女の瞳からは壊れた蛇口のように涙が溢れ出ていた。
体内の水分の全てが尽きるまで止まらないのではないだろうかと思うほど。