少女の体は考えるよりも先に走り出していた。
長女と長谷川の背中を掻き分けて少女が見たものは、横向きに倒れ口から血を流した白い猫だった。少女がずっと待っていた白い猫だった。少女の唯一の友達である白い猫だった。
少女は膝をついて白い猫を、手足の硬直した白い猫を抱き抱えた。
初めて触れた友達は冷たく、そして硬かった。

「駄目ですよ。汚れます。」


長谷川の声は少女には届かない。
固まりかけた血が少女の頬に付き、それを少女の涙が洗い流す。少女の声。

長谷川が久しぶりに聞いた少女の声は、泣き声と叫び声だった。



「ネズミじゃなくて猫がひっかかっちゃったのね。」

あとから来た次女が、吐血の横に置いてあるツナフレークを見ながら言った。

「駄目じゃないですか。そういうことなら私に言ってください。これは農薬ですか?
間違えて人が食べたらどうするんですか。」

長谷川が長女と次女を厳しい目で見た。


「こんな所に置いてあるものを食べるなんて、ネズミか猫かその子ぐらいじゃない?」

次女が長女を見た。