『がんばってください。』
と柔らかく微笑む長谷川に、どんな顔をしていいかわからずただうつ向くばかりだった。
この屋敷にペットはいなかったが、庭に住み着く白い猫がいた。
少女は朝昼晩と、必ずこっそりと自分の食事の一部を隠し持ち、誰にも気付かれないタイミングでそれを白い猫に与えていた。
『様子がおかしい』という理由で、四女との交遊も禁止されていた少女にとって、唯一のコミュニケーションだった。
「みんな私のこと嫌いみたい。ママも私のこと嫌いになったみたい。」
少女が手を伸ばすと猫はビクッと飛び上がり逃げ出す。
「私も一人なの。アナタと同じね。
アナタの家はどこなの?私もそこへ連れていってくれない?」
少女が手を引くと猫はまた少女の前に戻り食事を続けた。
食事を終えるとチラリと少女を見上げてからまたどこかへと向かう。そして必ず一度振り返る。その時に少女も必ず『またあとでね』と言って微笑みかける。
1日の中で少女が笑顔になるのはこの時だけだった。