そして夕紀も本当は気付いている。
娘と話していない。娘の笑顔を見ていない。

しかし今は三人の娘達に取り入ることしか考えられない。
彼女達の父親に嫌われたくはない。
この屋敷の他に行く宛てもない。

三女にはスケッチブックと色鉛筆だけが味方だった。

夕紀は三人の母親になりたかった。

三女はただ絵を描いた。

夕紀はこの屋敷での立場を守りたかった。

三女は無心に絵に色を塗った。

夕紀は必要とされたかった。

三女のスケッチブックに白い部分がなくなった。

夕紀は気付かない。



少女は『赤』を覚えた。赤色だ。

スケッチブックのページを気の済むまで黒に塗る。
最初は右下から斜めに塗っていき次は縦に、そして横に縫ったら最後は右上から斜めに。

そして左手を赤に持ち変え、黒の上に描き出す。
窓から風景を写生することもあれば、何も見ないで何かを描くこともある。
しかしその全てが読み取れない。
直線の羅列だったり、三角形の連続だったり、円をどこまでも連続させたものもあった。



「お姉ちゃん何書いてるの??」

四女と2人きりのいつも午後の時間、少女の絵を見た四女がそう聞いた。