夕紀はいつも三人の娘を見ていた。
いつでも話しかける隙を伺っていた。
隙さえあれば近寄る。媚びるように子供達に接する。
三女をいつも夕紀の焦点の外側にいた。
夕紀は話しかけるなとさえ思っていた。
「ママ」
三女の声は届かない。
「ママ!!」
「アンタはそっちで遊んでなさい!!」
ヒステリックな声が三女の耳から小さな脳を突き刺す。
夜、三女は自分で髪を切った。
長い髪を横一線に、前髪も横一線に、三女はハサミの使い方をそれしか知らなかった。出来なかった。
三女と夕紀はこの屋敷に来てからほぼ会話を交わしていない。
夕紀は気付かない。
三女は夕紀からも距離を置く。
夕紀は気付かない。
本当は距離を置くつもりではなかった。
不安な新しい家庭で唯一の身内である母親に突き放されることが恐怖になった。
『ママ』に声を掛けなければ、
長女と次女に嫌がられなければ、
そうすれば『ママ』に突き放されない。嫌われない。
そう考えていた。