「どうだろうな。俺は日本人だ。帰ってきただけかもな。」
━カチャ
加藤がティースプーンを一度置き直した。
「それで神野お前、この仕事終わったらどうするつもりだ?
また入隊でもするのか。」
━いらっしゃいませ
この女性店員の声が止むことはあまりない。
客の途切れないこの喫茶店は客の回転も早い。
主には待ち合わせに使われるようだ。
神野からの場所指定の場合は必ずこの店のこの席を使う。
店主はいつ来るかわからない神野のためにこの席をリザーブにしている。
「25年。」
「ん?」
「25年だ。生きることに理由をつけてから25年。それが終わったあとに何をするかなんて考えたこともなかった。」
神野は焦点を合わさない目で加藤の襟元を眺めていた。
「あはは!一途だな!いまどきはそういう重たい男はこの国ではモテんらしいぞ。」
「そうか、終わったらモナコでも行ってモテてみようか。」
「ああ、それがいい。見せ金くらいなら用意してやる。お前には人間として男性として何か大きなものが欠落している。
趣味の人殺しも戦争のPTSDかもしれんしな。
友人として何とかしてやりたいと思っていたところだ。」