「ああ、その娘いくつになったんだ?」

コンクリートむき出しの床に座る神野がカズヤに問いかける。

「もう5歳ですね。」

コンクリートの床に乱暴に置かれた木のベンチからカズヤは答えた。


「生きてればね。へへっ」

カズヤは付け加えて持っているロックグラスに呟くように言った。


「なんだ、死んだのか。」

「ええ、神野さんに会う前、3ヶ月前かな、死んだらしいです。」


「会ってなかったのか?」

「2歳まではちょくちょく。今の仕事になってからは一度も。人づてに聞いたんですよ。娘死んだって。へへ」

「はは。確かに会いにくいか。
さすがのオマエでも泣いたのか?娘死んで。」


「や、泣かないっすね。考えなければいいんです。昔話か何かかと思って受け入れればいいんです。閉ざせばいいんですよ。」

「閉ざすって気持ちとか心とか、そういう意味か。」


「あはは!神野さんから『心』とか、チョットきもいっすね。
まあでも、そっすね、閉ざすのは心です。今の仕事のおかげで得意になりました。長所っす。とか!へへ」


「オマエの馬鹿は確かに長所かもな。」