その『護り刀』の持ち主は、モスクワ管区にいた。

「ねぇねぇ!妃先生、またケーキ焼いて下さいよう!」

「はいはい、また暇な時にねっ」

纏わりつくジェシカとサーシャを振り切って、妃はようやく医務室へと逃げ込む。

「全くもう…私はパティシエじゃないんだから…」

溜息混じりに呟く言葉。

「…随分忙しそうだね、『先生』」

そんな彼女を見て、細身の男がくつくつと笑う。

最近は体調もいいのだろうか。

目の下の隈はすっかり取れ、病的なまでに痩せ細っていた体も、少しずつ血色がよくなっている。

「そうね。貴方の体質改善もこれからが本番だから」

クスッと笑い、妃は白衣の袖をまくった。

「よろしく頼むよ、『先生』」

過去には決して見せる事のなかった微笑みを浮かべ、ルシファーは妃の治療に臨むのだった。