が、その感慨に浸るのもここまでだ。

もうAOKの包囲がこれ以上なく狭められている。

手を伸ばせばAOKの牙も爪も届くほどに。

ルシファーは臓器移植実験被験者だ。

簡単には死なない。

死ねない。

拒絶反応で動けないまま、生きたまま全身を食い千切られ、引き裂かれ、生き地獄を延々と味わわされるのだ。

この暗い地の底で、阿鼻叫喚の無限の地獄に沈む事になる。

ここまでか。

静かに目を閉じるルシファー。

その体が。

「!?」

グイッと後ろに引き摺られる。

強引にAOKの包囲から引っ張り出されるルシファー。

同時に…「!」

首に何かが刺さる感触。

咄嗟に振り向くと。

「何で逃げないの!」

妃がルシファーの腕を掴んだまま怒鳴っていた。

目を丸くしたまま、彼は妃の顔を見つめる。

「何をした…?」

「え?ああ、これ?」

妃の左手には注射器が握られていた。

作戦前夜、彼女が夜通し作っていた薬品が注入されていたものだ。

「あなたが拒絶反応に悩まされている事はアレクセイ大尉から聞いていたから…その発作を止める薬よ。一度打っておけば、丸一日は効果がある筈よ」