肩に温もりを感じて山南は、ハッと顔をあげたが、その顔は酷く疲れていた。


「山南さん、こんなとこにいちゃ風邪ひきますから…」


肩に乗る小さな手が血に濡れた錯覚を起こし、手を払った。


「…ッッ! す、すまないッ」

「山南さん…」


廊下に踞る背中は震えていた。

ひょろっとしていて何故か花の香りが絶えない背中が、小さく震えていた。






「君に、この手はどう映る」


少し落ち着きを取り戻した山南の部屋で、火鉢を温もらす。


「白くて、優しい手。 いつも冷たくて、痛々し手」


ジッと手を見つめる山南の隣に移動し、霜焼けをおこした手を暖めようと両手で包み込んだ。

「よく言いますよね。 手が冷たい人は、心が暖かいんだって」


もうすぐ日が暮れるからか、外は夜番の隊士達の騒がし声がしている。

本日の夜番は四番隊と八番隊だったなと思いながら、冷えた手を温め続けた。


「……この手はね、もう刀を握れないんだよ。 あの日から、人を斬ろうとすると震えるんだ…。
あの人の血が感触が、この手に刀を握らせてくれくなった」

「………」

「新撰組ともあろう者が、なんとも情けない。 なまくら刀に価値などないから、だから私は彼らに必要とされなくなった…」


山南は池田屋事件後、その役職を副長から総長に改めていた。
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