「綺麗!!まだ満開じゃない?」
近所で桜が綺麗と評判の場所に来ると、永倉を置いて走り出した矢央は桜の木を見上げ歓喜の声を上げた。
そのあとを追ってきた永倉も同じように見上げて微笑むと「七分咲きってとこか」と目を細める。
「そういやあ、花見していた時なんだけどな山南さんが矢央の後ろに立ってたことがあるんだ」
「え?山南さんが?」
なになに、と興味津々に永倉の腕に抱きつき顔を見上げてくる矢央の頭を撫でる。
「きっとお前のことが気になってたんだろ。何故か俺と平助にだけ見えてた。それで、お前を頼むって言われたよ」
「そうなんだ。また会いたいなあ。
みんな元気にしてますかね?斉藤さんや原田さんや土方さん、どうしてるのかな」
「どうだろうな。蝦夷地の方じゃまだ戦は続いてるって聞くが。土方さんなら、どんな手使っても生きるだろ」
「…そうですね。うん、そうだよね」
永倉は知らない。
土方が最期の地として蝦夷地へ向かったことも、そしてそこで命を落とすことも。
しかし矢央は土方が戦で命を落とすことだけは知っていて、けれどそれがいつかは知らないので土方もどこかで同じように桜を見ていてくれたらと願った。
「似合うな」
想いにふけっていると突然永倉に言われて何がと首を傾げる。
ヒラヒラと花弁が舞い、それを掌に乗せた永倉はその花弁を矢央の髪に乗せた。
「桜だよ。矢央には桜がよく似合う」
「そうですか?そう言えば、昔総司さんにも言われたなあ…あ、あとで総司さんのお墓参りして帰りましょうか」
「ああ」
ふわりと微笑む矢央につられて永倉も久しくぶりに心から笑った。