永倉の気掛かりなんて露知らず、矢央は毎日楽しそうにしていたのでどうしたものかと悩む。


彦五郎やのぶは好きなだけでいるといいと言ってくれて有り難く思うが、それは男としてはとても情けなく感じるのだ。


矢央を連れてどこかに家を構えて二人で暮らすというけじめをつけたいのに、そうするためには障害が多い。


敵に狙われる暮らし、二人で暮らすためには職にだってつかなくてもならないが、今の状態ではとても出来そうもない。


剣のために生きたい、自分一人の力でどこまでやれるか試したいと家を出てきたものの、最後行き着いたのは何も出来ず世話になるだけの役立たずときた。



「情けねぇな、ほんと…」


惚れた女一人面倒見られない不甲斐ない男だと潮笑う。





年が明けても二人の暮らしは相変わらずで、矢央にとってはとても幸せな毎日を過ごしていたが、永倉は次第に考え込むことが多くなっていった。


明治になり江戸ではすっかり元の生活を取り戻しつつあったが、時々幕府側だった者が捕まり殺された話なんかもチラホラと耳にしたりして、毎日日課にしていた散歩も矢央が遠慮するようになると、永倉は殆ど家の中だけでの生活になった。


「新八さん、お茶どうぞ」

「…ああ、悪いな」


元気のない声に苦笑いすると、永倉と共に空を見上げる。



「もう冬も終わりますね。桜咲くまでどれくらいですかね?」

「まだ朝晩は冷えるからな、あと一月二月ってところじゃねぇか」

「そっか。ねえ新八さん、お花見しようね」

「…そうだな」


その頃には自分の身がどうなっているのだろうと、浅葱色の空を見つめ思う。



平和に暮らしていると意外と時間が経つのは早いもので、二人を暖かな風が包む季節になり矢央が楽しみしていた桜も咲き始めている。


京の屯所には桜の木があって、屯所を出なくても花見が出来たが此処ではそうもいかず永倉が花見に行くかと誘った。


「いいの?」

「お前が遠慮することねぇんだよ。たまには外に出ねぇと息がつまる」


未だにこれからことが決まらない永倉の苛立ちは最近ピークに近い。

しかし誰に当たることもできないので、毎日の素振りの量が増えていた。