「春樹」
春樹の、遠きかけた意識が戻る。
恵理夜の手によって、薬が投与され終えていた。
「起きなさい」
命令される口調につられて春樹は瞼を持ちあげる。
「……馬鹿」
目が合った恵理夜は、そういって笑った。
そして、片目は涙を流していた。
春樹は、そっと血に汚れていないほうの手でそれを拭おうとした瞬間、
――銃声
――恵理夜が、春樹を庇うように振り返る
――春樹の手から、ナイフが放たれる
――夏樹の身体が、崩れ落ちる
「……俺のものには、ならない、か」
夏樹の呟きが聞こえる。
そして、
――恵理夜の身体も崩れ落ちた。
銃弾が、その胸を貫いていた。
「お、嬢……様」
ヒュウヒュウと、弱々しい呼吸が、小さな唇から漏れていた。
「恵理夜様ぁっ!!」
春樹の叫び声が響き渡る。