「やっぱり、貴方だったのね」


――ナイフを、春樹によって打ち落とされ気まずそうに笑う夏樹の姿があった。


クローゼットの中には、かさ張る服がない分、夏樹一人分のスペースが空いていた。

3度目の薬を盗んだ夏樹は、ずっとこの部屋に潜んでいたのだ。


「やっぱりって、俺はてっきりお嬢さんが、春樹を疑い続けてるもんだと思ってたんだけどなぁ」

「あら、どうして」

「俺と庭で話した後、気づいたんだろ。春樹についたレミコ様の香水に」

「ええ、でも香水の匂いに気づいたのは春樹が入ってくる前よ」

「どゆこと?」

「春樹は部屋に入ってまずすることは、ポットの電源を入れること。でも、給湯スペースの電源は全て切られていた」

「つまり?」

「春樹が入る前に、シャネルの5番の匂いを付けさせた誰かが部屋に入ったということ」

「なるほど。でも、レミコ様かもしれないだろ」

「レミコさん本人がここに来るなんて、そのほうが不自然よ」

「それもそうか。でもどうやって盗んだって言うんだい」


春樹が、夏樹の前に立った。