――春樹は、恵理夜の去った部屋で空の薬箱をいつもの位置に置いた。
ベランダの鍵は閉まっている。ドアは春樹以外、内側からは開けられない。
部屋は入ったら出られない密室状態だ。
隠れる場所など、ベッドの下くらいだが、当然そこは空だ。
薬を持ち出すことが出来るのは、春樹以外には考えられなかった。
一度目、そして二度目、今回で三度目もそうだ。
その時、春樹はふと、レミコの言葉を思い出した。
『クリーニングから戻ってきていないのよ』
そして、夏樹の言葉を思い出す。
『一着も二着も変んないって。ついでついで』
クリーニングに出したのはコートやワンピースなどのかさばるものばかりだ。
かさ張る服。戻ってこないクリーニング。
点と点が線で結び付く。
「春樹っ」
部屋の扉が開き、恵理夜が飛び込んできた。
――その瞬間、クローゼットの内側から、ナイフが飛んできた。