「夏樹と春樹、よくよく考えて出来た名前だと思わない」

「そうですね」

「実は、あの二人父親が同じなのよ」


夏樹の言葉を思い出す。

『兄弟』――あれは本当だったのだ。


「ヒジリ博士と」

「ええ、あの人と別れてから生まれたのが夏樹なのよ。春樹の次だから夏樹と名付けたのはあの人でした」

「……それが?」

「私、やはり手元には息子を置いておきたいのよ」


にっこりと笑うレミコ。


「夏樹、貴女ととても親しくしているし、夏樹を差し上げてもいいわ。兄弟だから、代わりにもなるでしょう」


しわにまでファンデーションが塗りこまれている口元で言う。


「春樹を、私に渡して頂戴」

「お断りします」


恵理夜は、きっぱりと言い放った。


「春樹は、私の執事です」


レミコの顔が引きつるが、決して怯まない。


「貴女に、親子の絆を断ち切る権利があるのかしら」

「嘘ですね」


恵理夜はレミコから目を逸らさない。


「貴女は、親として春樹を見ていない。春樹は、観賞用じゃありません」

「私は、母としてっ」

「春樹の美しさにしか興味が無いなんて、可愛そうな方ですね」


レミコがギリギリと奥歯をかみ締めるのがわかった。


「春樹は、渡しません」


恵理夜は、踵を返した。