「優しいじゃん」

「移さないで、って言ってるじゃない。早く治しなさい」

「何だかんだ言って、こないだも看病してくれたし」


3日前、夏樹は体調不良で倒れ、恵理夜に介抱されていた。


「風邪は怖いのよ」


免疫の少ない恵理夜はその怖さを特に知っている。


「でも、今年の風邪はなかなか直んないのよねー」

「きっと疲れでしょ。こんな時間でも働いてるから」

「心配してくれてるの?」


夏樹の手が、親しげな様子で恵理夜の肩に回される。


「ね、看病しに俺の部屋来ちゃう?」

「…………」


するりと、音もなくその手を解くと恵理夜は無言で歩き出した。


「ちょ、冗談だってお嬢さんっ、ごめんって」