――恵理夜は、夜の庭園を歩いていた。
気温は肌寒く、植物も元気をなくしているように見えた。
――ガサガサ
突然、植物が揺れる。
「あれ、お嬢さんじゃん」
そこにいたのは夏樹だった。
「何してんの、こんなとこで」
「お散歩」
「見ればわかるけどさ、こんな時間にするもんじゃないでしょー」
「夏樹こそ、何してるの」
「庭師さん休みだから、代わりにレミコ様の部屋に飾るお花を取りに。お嬢さんもいる?」
その言葉に恵理夜の勘は、敏感に働いた。嘘だ、と。
「いらないわ」
厳しい顔で夏樹と距離をとる。
「じゃ、これだけ。さっき、摘み間違えてさ」
と、夏樹はかまうことなく器用に恵理夜の髪に短く摘まれた花を挿した。
「お、似合う似合う」
と、笑う夏樹に毒気を抜かれた。
恵理夜はため息をついて警戒を解いた。