「もう、いつになったらクリーニングが終わるのよ」


その先で、レミコが自室近くで喚いていた。


「あら、春樹」


目が合ってしまった春樹は、声を掛けざるを得なかった。


「いかがいたしました、レミコ様」

「夏樹が出したクリーニングのスーツが帰ってこないのよ」

「おや、それは……」

「もう、夏樹じゃなくて貴方みたいに優秀な執事が欲しいわ」


レミコは、擦り寄って春樹の端正な顔に手を触れようとした。


「手放したのは貴女でしょう」


その手が触れる前に、ぴしりと言い放つ。

レミコは言葉を返さない。


「……正直、あなたがレポートをどうしようがかまいません」

「私を疑っているの?」

「可能性として。ですがお嬢様に危害を加えるのだけはやめてください」

「たかが1冊のレポートで、何ができるというのよ」

「いえ、他意はありません」

「……春樹」


レミコは、そっと春樹の手を取った。


「もう私を母とは呼んでくれないのね」


その手は、ずっと昔に薬の副作用で髪を失った息子を醜いと罵り突き放した手だった。


「失礼いたします」


春樹は、するりとその手を解きレミコの元を去った。