――恵理夜の入浴後。


「一人に、してもらえる」


春樹は、ポットを中心とした給湯スペースの電源を落とした。


「失礼いたします」


春樹は一礼して、恵理夜の部屋を出た。


「さて……部屋に、戻るか」


扉を閉め、春樹は自身の自室へと足を向けた。


「おや、」


廊下の反対側から歩いてくるヤマザキと目が合った。


「レミコのお気に入りじゃないか。恵理夜お嬢さんから開放されて逢引か?」


春樹は、すれ違うヤマザキに丁寧に頭を下げた。

しかしヤマザキは、レミコのお気に入りでありシラヤナギの眼にも留まっている春樹を良く思っていなかった。


「嫌な奴に会っても、顔色一つ変えないとはさすがは優秀だな」


ヤマザキは春樹の服に、容赦なく唾を飛ばしながらはき捨てた。


「ではお聞きしますが、とても不快な方とお会いしたとき、貴方はどうしますか」


優雅で丁寧な動きで、服を拭いながら春樹は聞いた。


「そうだな。わしなら、無視して去る、かのう」


春樹は言葉通り、無言で歩き去っていた。