「春樹が終わってからにするわ」


春樹は、恵理夜の薬を残すためか前日から、注射による投薬を一切行っていなかった。


「いけません」


ぴしり、と有無を言わさず言い放った。


「貴女が倒れられたらどうするのです」

「春樹が倒れたら、誰が私を守るのよ」


珍しく春樹はいたずらっぽく微笑んだ。


「私は、貴女より丈夫ですよ」

「なによっ」


馬鹿にされたような気がして恵理夜はそっぽを向いた。


「……さあ、薬を」


ひどく優しく手をとられ、逆らえずに従う。


「倒れないでよ」


恵理夜の珍しく心細そうな声。


「はい」


春樹は、微笑んだ。安心させるように。

そして、自分を信頼する恵理夜を愛しく思うかのように。