春樹が、恵理夜のために扉を開いた瞬間、


「よぉ」


明るく染められた髪の男が、ひどく軽いノリで手を上げて挨拶をした。

ぼさぼさの髪をルーズに結い上げている。


「勝手に入り込んで、何をしている。夏樹」


夏樹――それが彼の名前だった。


「そう怖い顔すんなって兄弟」

「名前が似てるだけで兄弟にされるなんて堪らないな」

「春樹が冷たいぜー、お嬢さん」


夏樹は、大げさに悲しみながら恵理夜の肩を抱いた。


「気安く触らないでいただけるかしら」


恵理夜は冷たく突き放す。


「あららお嬢さんも冷たいこと」


肩をすくめる夏樹の鼻先に恵理夜は指を突きつける。


「鼻が赤いわよ」

「え……」

「風邪、まだ治ってないんでしょ」


思わぬ気遣いに夏樹の口元から笑みがこぼれる。