「一体、なんだったのかしら」

「誘拐目的、でしょうか」


恵理夜は深々と、ため息をつく。


「普通に生きるって、難しいことね」


春樹は、何も言えずにいた。


「あの人たち、どうなるのかしら」

「きっと、後ろの車が回収してくれますよ」

「そう」


春樹は、バックミラー越しに後ろの車を確認し、わずかに首をひねった。


「お嬢様、後ろの運転手に見覚えはございませんか?」

「さあ」


身をかがめながら後ろを確認しながらも恵理夜は首を振った。


「ところで、どうしてクラッカーなんかを?」

「貴方を、驚かせようと思って」


春樹は、ハンドルを握ったまま、おやおや、と肩を竦めた。


「貴女が撃たれたんじゃないかと、肝をつぶしましたよ」

「じゃあ成功ね。本人に仕掛けるより、こっちのほうが効果はあるのね」

「もう、ご勘弁いただきたいです」


恵理夜はようやく、舌を出して笑った。