孝廉は午後の柔らかな光の中に目を覚ました。
身体には薄い毛布がかけられ、顔の前に掲げた両手には、それぞれ指先から手首にかけて、白い包帯が巻かれていた。
無意識下で、土壁の、質素な造りの部屋全体にサッと目を走らせ、危険物を確認する。
一体どうして自分はこんなところにいるのか、孝廉はしばしの思案の内に身を起こした。
寝台の脇に置かれた自分の薄汚れた荷物に目が止まり、片手で引き寄せると、中身を確かめた。
―…短刀が、ない
背筋にスッと寒気が走った。
同時にどうにも押さえきれない怒りが孝廉の中を駆け巡った。
室内を物色しようと寝台を起き出した、その時だった。
木製の扉が開き、顔をだした細身の男は、そのまま部屋に入ってきた。
「お、気づいたか」
孝廉は、とっさに身構えた。
男は立ち止まると頭をガシガシとかいてそれ以上近づいてこなかった。
「まいったな……気の強いお嬢さんだ」
李漢は正直なところ、困惑していた。
いったいどう扱ったらいいのやら―…
男がおもむろに懐から短刀を取り出すのを孝廉は全神経をもって、射抜くように見つめていた。
「返せ」
男が短刀を手にしていることに、腸が煮えくり返る思いだったが、孝廉は声を荒げることはなかった。
ただ静かに殺気を走らせ、男を睨み付ける。
自分のペースを乱されてはいけない。
相手に引きずられてはいけない。
孝廉の身体は、生き残るための最善を全力で探っていた。
李漢は訝しげに眉をひそめた。
目の前の少女はまるで、怯えきって尻尾を丸め、今にも噛みつきそうに喉を鳴らしている獣のようだった。
「そんなに警戒すんな。ほら、返すよ」
李漢は孝廉に短刀を放ると同時に、腰に帯刀していた自分の短刀を閃かせた。
カキンッ―…
一瞬のうちに間合いを詰め、李漢に斬りかかった孝廉は、刀が弾かれた次の瞬間には李漢から飛び退いていた。