手紙の内容は簡素なものだった。

 この文を持つ者が自分の孫であり、名は“椿孝廉(チン コウレン)”ということ。
彼女の母親は愚かな父親によって毒を盛られ、廃人となったこと。
彼女自身も父親に切り殺されそうになったところ、逆に父親を刺殺してしまい、大罪人となってしまったこと。
そこで最低限の荷を持たせ、夜が明けぬうちに死海に送り出し、わずかな希望であるが、無事にアショ国にいる弟子の下にたどり着き、彼女が生きながらえることを祈っていること…

 李漢は彼女の持っていた短刀の意味を知った。
娘は自分の師の孫であり、師は心から彼女を大切にしていたのだろう。

 愚かな父親が、何故彼女を殺そうとしたのかは書かれてはいないが、それはいらぬ事情を知らないほうが、李漢や彼女の身のためということなのだ。

 “自分は彼女の身代わりとなって大罪を背負う所存、死罪を免れることはないと思われるので、孝廉はそなたに預けたし”

孝達の手紙は覚悟の滲む闊達な字でこう締めくくられていた。