重たい籠を抱えて河原に降り立つと、椿は無駄口をたたくこともなく、冷たい川の水に手を突っ込んだ。
一方のシュナは足元でちょろちょろとすばしっこく動くトカゲに心を奪われたらしく、芋洗いを椿に任せて、それに見入っていた。
 椿はそんなシュナを見ているのが好きだった。
まるで命が丸裸で駆け回っているかのように、自由に野山を駆け回る無邪気なシュナの笑顔を太陽のように感じている。
シュナはとにかく優しかった。
その優しさは、動物にも虫にも植物にも、分け隔てなく注がれていて、人一倍の好奇心で、気づけばいつも夢中になって観察しているのだった。

「シュナ、そこに魚がいるよ」

ぱっと駆け寄ってきたシュナは相変わらずきらきらと目を輝かせて、川を覗き込んだ。

「あれはゴジャだよ、身が白いんだ。ツバキは食べたことあるか?」
「うん。この前、李漢さんが釣ってきた…私にも捕れるかな?」
「だめだよ。むやみに殺してはいけない」

珍しく真面目な顔でぴしゃりと言い返され、椿は苦笑した。

「そうだな、それじゃあシュナもこの芋を洗ってくれ。今晩のおかずに私があのゴジャを食べなくてすむように」

慌てて芋を手に取ったシュナがおかしくて、椿は思わず噴き出した。

「何が面白いんだ?なにかあったのか?」
「いや、シュナがあんまり素直だから」

シュナは理解できないようで、首をかしげていたが、まあいいやと一緒に笑い出した。

「ツバキが笑うならなんでもいい。なあツバキ、芋を洗ったら地下に行こう」
「地下?」
「すごくきれいなんだ」

椿の目に、おもしろがっているような光が浮かんだ。