「あの人、名前、なんていうんですか?」
朝餉の後に、ソンニに腕を引かれて畑に向かう彼を見送りながらつぶやいた椿に、李漢は驚いた。
(ようやく心を開き始めたか…)
白い包帯のまかれた椿の腕を見下ろし、李漢は微笑んだ。
「シュナ、だ。たしかお前より二つ下だな」
「シュナ…」
椿は、僅かに心が安らぐのを感じていた。
*
李漢は椿がシュナと共に過ごしているのを微笑ましく思っていた。
シュナは椿をたいそう気に入ったらしく、何かと椿に構いたがった。
不思議なことに、椿もシュナを邪険に扱うことはなく、シュナが近くにいると時折笑顔を見せるようになった。
いい傾向だ。
李漢は年相応の表情を見せるようになった椿が、このまま平穏な暮らしに馴染むことを願った。
武芸の鍛錬をやめてほしい。
そう思わずにはいられなかった。