それから毅は美紗子の家に戻り、少し散らかった部屋を片付けた。

そしてさっきの卒業アルバムの中を見た。

中には美紗子の笑顔の写真があった。

そして後ろのメッセージのところには

【早く家を出れたらいいね。】

の文字。

友達が書いてくれたのだろう。

そのとき、毅は美紗子は実家となにかあっているのだと思った。

聞くのはいけない、そう思いながらも相当2人は気になっていた。

もしかしたら何か鍵になるのかもしれない。

小さな望みだが、家の事情を聞くために、毅は姫の横である人に電話をした。

百合だ。

百合は4コールくらいで電話に出た。

百『もしもし。』

あからさまに嫌そうな声をしていた。

毅『いきなりだけど、美紗子ちゃん知らない?』

百『あんたら、まだ友達ごっこしてるの??』

その言葉に毅は怒りが言葉に出そうになったが怒ると教えてくれなくなると思い、話をそらした。

毅『美紗子ちゃんの家、なんか変じゃない?』

百『めちゃくちゃ変。知らないの??』

百合はそれから全て話した。

百合は美紗子の家のことは全て知っていた。

その話に毅は絶句してしまった。

百『てか、なんで家なの??説明してよ。』

その言葉を聞いて毅は一方的に電話を切った。

そして姫に全てを話すと姫は自分が家庭のことを幸せそうに話したことを悔やんだ。

その姫を毅は慰めていた。

次の日の夕方、毅はりんごの散歩として美紗子の家に向かった。

美紗子の家からするとベランダのほうの細い道を歩いていたら機械の壊れた後があった。

車につぶされたかのようなものだ。

いつもならそんなもの素通りするりんごが必死で匂おうとするから毅もそっちに行った。

それを見て毅は気付いた。

”これ・・美紗子ちゃんの携帯と同じストラップ…”

美紗子はサンダルのスワロフスキーが綺麗についたストラップをつけていたがその機械の壊れた中にそれがあった。

そしてよく見ると機械の壊れたものは携帯で美紗子と同じ機種、色だった。

それを拾い集め、毅は家に戻り姫に知らせた。

【美紗子は携帯を窓から捨てた後、どっかに行っているということを。】






それから月日は過ぎ、年末。

12月30日は美紗子の誕生日。

毅や姫、竜次やもっくんも美紗子の家に集まった。

家賃は美紗子は少々貯金があったのでそれから引き落としがされていたので家はずっと継続して借りていた。

帰ってくる気配がまだない美紗子の貯金で家賃が足りないといけないからと姫はバッグの中にあったカードの口座番号を見てコッソリ振り込んだりしていた。

だが、それは毅も竜次ももっくんも黙ってコッソリやっていた。

たまにみんなで美紗子の帰りを家で待ったがいつも玄関が開くことはなかった。

翔は美紗子の実家に謝りに行ったが翔にも美紗子の親は【わかりました】の一言だった。

翔は、何かあったらすぐ連絡をすると言っていた。

だが、全員翔を許すことが出来ず、連絡が翔のほうにありませんようにと願っていた。

百合はあれ以来連絡すらしてこなかった。

全然気にならないのだろう。

そこが姫はむかついていて、家を教えろと最初はひつこく毅に言っていたが毅は頑として教えなかった。

月日が過ぎ、妊娠しているかもしれないという美紗子がみんなすごく心配だった。

1人で産む気なのだろうか、など色々とその日話が出た。

そして主役のいない誕生会が始まり、主役に食べてもらえない小さなケーキを4人で食べた。

その誕生会のときにも待っても待っても玄関が開くことがなかった。

誰かに祝われているかな、とみんな心配だった。
それから年が明け、それでもみんな美紗子を待った。

毅はモテるほうなので会社や野球関係から結構女の子絡みの誘いがあったが、美紗子以外の女に目もくれず待っていた。

毅は以前、野球チームのマネージャーから言い寄られていたが、今はキッパリ縁を切り、昔と全く逆の女っ気の全くない男になっていた。

それだけ美紗子が心配だった。

自分があのときあんなことを言ったから。

妊娠していてもいい。

子どもを産んでからでもいい。

ただ、戻ってきてほしい。

それだけを願って毎日美紗子の家までりんごと散歩をしていた。

りんごはヤンチャだがもう立派な成犬になった。

そして冬は寒さを増し、ときには地面を白くすることもあった。

そんな寒い中でもりんごと毎日毅は美紗子の家に通った。

もちろんたまに竜次やもっくん、姫も来ていた。

そして2月19日の日。

その日も夕方、毅とりんごは散歩に来た。

だが車はなくいつも通り家に行ってもガランとしていて人の気配はなかった。

そして下に繋いでいたりんごを連れてまた家に帰り姫や竜次、もっくんに今日も何もありませんとメールをした。

これは4人の習慣になっていた。

そしてその夜、美紗子は戻った。

何も感情がない、そんな空っぽな美紗子は何も知らず部屋のベッドで寝ていた。
美紗子が目覚めるともう太陽は高々と昇っていた。

『え?今何時?』

そう独り言を言って時計を見るとお昼の12時過ぎ。

”やばい!!会社寝坊しちゃった!!”

そう思い電話しようと携帯を探すけど出てこない・・

そして今日は何曜日だったかと考えるが曜日感覚が全くない。

カレンダーを見てみると2月。

”え!?2月!?しかもこのカレンダー見覚えないし!!これわたしの部屋よね!?うん、わたしの部屋では・・あるっぽい・・”

美紗子の中ではまだ10月下旬だった。

そう、美紗子は記憶をすっかりなくしていた。

翔から乱暴されたあの日の前日の夜以降の記憶が。

姫の不倫相手が殺されたことと、毅が家に行くのを翔に見られたことと、毅に告白されたことだけが頭にはあった。

だが、カレンダーの2月というものに戸惑いを隠せなかった。

色んな物の置いている位置も違う。

新しい物も増えいている。

異常に寒い。10月の寒さではない。

そして横にある汚い洋服とビニール袋。

そして買った覚えのないジーンズのポケットに入っている知らないお金。

意味がわからなくなってしまい、混乱した。

混乱の中チラッと窓のから外を眺めてみたらなぜか懐かしさというものを感じた。

”久々に見たような気もする・・でもなんで?”

そう思いながらしばらく座って考えると鍵の回る音がしていきなりドアが開いた。
美紗子は玄関を見た。

姫が玄関を開け目があった瞬間、何も言わず土足で部屋に入り美紗子の頬を1発平手打ちした後声をあげて泣きながら抱きついてきた。

姫はたまたま家に来たら、車があったので急いで部屋に来たのだった。

美紗子は痛い頬をさすりながら呆然とした。

”一体なんなんだろう?なぜ殴られたの?”

そう思いながら

美『姫、どうしたの?なにかあった?』

と声を掛けた。

姫『こっちのセリフよ!!あんた今まで一体どこにいたの!?何ヶ月もいなくなって死ぬほど心配してたのに!!!』

姫は泣きながら怒鳴った。

”何ヶ月!?いなくなった!?”

姫の言葉に美紗子は混乱した。

美『ちょっと待って。ほんとに今は2月なの?10月じゃないの?わたしいなくなってたの?』

そうポツリポツリと聞く美紗子の顔を姫は見ると美紗子は前より数段痩せこけていて、巻き髪をキレイにしていた髪の毛はボサボサのプリン色。

メイクもほとんどしていないひどい状態だった。
姫『え?なに、10月と思ってるの?記憶ないの?てか、あんた鏡で見てごらん。こんな状態なるまで美紗子は普通なら放置しないよね。』

そう言われたので、美紗子は恐る恐る鏡を見た。

その瞬間、髪の毛の見事なプリン状態と痩せてこけてしまっている自分に驚愕した。

そして

美『ほんとにわたし、いなくなってたの?ほんとに覚えてないよ。わたしの記憶では昨日姫がその…不倫相手の方が亡くなったって家に来てて、りんごつれて毅くんと家行ったら翔がいて、毅くんから…そのあとその…』

言いにくそうに美紗子がしていると

姫『告られたんでしょ?その次の日のことは?』

姫はだいぶ涙は止まって落ち着いて優しく聞いた。

美『わからない・・ほんとに覚えてない・・』

その瞬間、美紗子は涙を流した。

その美紗子を姫は黙って抱きしめた。

いま、その次の日にあったことを言うと翔とのあのことを思い出して、もしかしたらまたおかしくなるかもしれないと思い、黙っていた。
美紗子は見覚えのない汚れた服やジーンズ、ポケットの中のお金のことを話したが、姫は

姫『もう、思い出さないでいいよ。またいなくなったらいやだ。』

そう言って美紗子の手をギュッと握った。

そして美紗子がいなくなってからのことを少しずつ話した。

翔のことは【美紗子が覚えている日の次の日に別れている】と伝えた。

美『なんで?別れたの?』

不思議そうな美紗子に姫は

姫『自分の気持ちに正直になったんだよ。』

と一言伝えた。

その言葉に美紗子は納得したかのように黙り込んで暫くして答えた。

美『毅くんのところにわたし行ったんだね・・?』

その問いに姫は小さく頷いた。

そこまでで止めておこうと思ったが美紗子が

美『わたしがいなくなってから何かあった!?』

と聞いて来たので、翔が来たことは伏せておいたが、家には同僚の人が尋ねてきていたことや、言いにくかったが母親に会ったということも話した。

そのことを伝えた瞬間美紗子の顔は曇り、

美『親らしいことなんにも言わなかったでしょ?あの人・・。失礼なこと言ってたらごめんね・・』

それだけ言った。
姫は理由を聞いたということは絶対に言わないでおこうと思った。

言いたくない、知られたくないことは誰にだってあるから。

そして毎日誰かがこの家に来ていたことを話した。

姫『今日はわたし久々にりんごに会いにいこうと思って毅の家行こうとしててさ、ついでにこの家の前通ってもらったら美紗子の車があるんだもん。その瞬間止めてもらって走ってここ来たよ。まじびっくりした。』

また涙ぐみながら話す姫の姿を改めてじっくり見た美紗子は姫にギャルだった頃の面影がまったくなく、髪も伸びてかわいい女の子になってるなと思った。

美『ごめん、心配かけてたみたいだね・・』

そう言うと

姫『やべ、まだあいつらに美紗子がいること言ってないし!!まだ仕事中だろうからメールしとこっかな。』

そう言いながら姫は泣きながらだが、すごい笑顔を見せた。

姫はメールで【今ね、りんごのとこ行こうとしてついでに美紗子の家の前を通ったら美紗子の車があったの!部屋に入ったら普通に美紗子いた。しかも記憶があの日の前日までしかないっぽい。一刻も早く家に集合!!】

と3人に一斉にメール送信した。

そして、

姫『美容室いこっか!あんたその髪の色で毅に会いたくないっしょ?』

そう言って姫は美紗子の髪の毛を上から見た。

美『うん…ありがとう。そだね・・』

そう言ってまずシャワーを浴びて化粧を始めることにした。

その間、姫に

美『ね、姫。姫は大丈夫なの?あの…ことさ。』

姫は不倫相手のあの事件だとすぐ思った。

姫『まだ思い出すとちょっと辛いけどもう大丈夫だよ。誰かさんのせいでそれどころじゃなくなったし?今は実はさ・・竜次と・・』

そう言って黙る姫に

美『えぇー付き合ってるの!?』

美紗子は叫んで姫を見ると姫はヘヘッと笑った。

そんなとき、姫の携帯がけたたましく鳴った。

着信は毅だった。
姫は美紗子に電話に出ろと言い、美紗子はちょっと気まずいながらも電話に出た。

美『もしもし・・』

毅『えっ、ちょ、美紗子ちゃん!?え、ほんとに!?』

毅はすごく混乱しているのがわかった。

美『姫から話聞いた…なんか心配すごくかけてたみたいで・・ほんとにごめん・・』

毅『・・まじ・・よかった。』

そう言って毅はゆっくり息をついた。

そのよかったという言葉がなぜか美紗子の心を打ち、涙が出そうになった。

心配、すごくかけてたんだなと思った。

毅『俺さ、仕事帰ろうと思ったけどどうしても抜けれなくて・・でもすぐ家来るから。絶対待ってて。もう・・』

そう言って毅は止まった。

美『うん、待ってる。もういなくなったりしないから。』

そういうと毅はうん。と言った。

そして軽く挨拶をして電話を切った。

その瞬間、美紗子は涙が溢れて止まらなくなった。

その美紗子を見て姫も涙ぐんでいた。