これが桐生怜二という役者。
繊細でいて美麗。
スクリーンに彼が出れば、誰しもが自然とその立ち振る舞いに息を呑む。
ポンと肩を叩かれ、イヤホンを外しながら振り向けば、そこには同僚である橘ヒロキが立っていた。
顔には無精髭が生えていて、目の下には濃いクマがくっきりと出ている。どうやら、ここ数日まともに寝れていないらしい。
「…このくそ忙しいのに、何のんきに映画観てんだよ」
「忙しいのは橘だけでしょう。俺は、先生から原稿も無事に預かったし、あとは修正稿を確認するだけです」
「小林先生の担当か。畜生、羨ましいぜ、連載も相変わらず評判いいみたいだしな」