シュウは楽しそうだ。
玄関で偶然会い、何のエンターテイメントもない町を歩き、商店街で買い物して、俺に対して悪態をつく、今日一日のどんなときも。
5月の、緑の匂いが混じった風が吹きぬけた。
シュウに、半ば強制的に交換させられたメガネを外して、はじめてまともに町を眺めた。
静かに、そしてゆっくりと橙色に染まる夕暮れが、酷く美しく、そして優しく感じられるのが不思議だった。
逃げて、逃げて、行着いただけの場所だというのに。
前を歩く、小林秀宇の影が長く伸びている。
「桐生、何ボーっとしてるの。置いてくよ?迷子になってもしらないから」
振り返るシュウのもとへ、無言のままに走るのだ。