声が出ない。

思わず後ずさりをしたとき、床に積まれた書物にぶつかってバサリと本が崩れ落ちた。


「・・・やば、」


シュウの、色素の薄い茶色の瞳が大きく見開かれる。
なんとなく気まずくて、俺は慌ててそっぽを向いた。


「ごめん、起こしちゃった?」

「・・・いや、ていうか。おまえ、大丈夫なの。絶対熱あったぞ。何こんな朝っぱらから机に向かってんだよ」

「へいきだよ、そんなの。ゆっくり寝たら治ったし。そんなことより、締切守らないと静香怖いんだもん」

「知ってるか?酒入れて寝るのって"睡眠"じゃなくて"昏睡"っていうんだぜ」

「そんな難しいことわからないなァ」


シュウは肩を竦めて、それからゆっくりと伸びをする。
つい一瞬前に机に向かっていた小林秀宇が姿を消して、普段の彼女が俺に向かって微笑んだ。

どきり。

また心臓が鳴った。


おいおい、どうしたって言うんだ、俺…。