そんな想いとは裏腹に、彼は屈託ない笑顔でしつこく花森さんと呼んでくる。
私に何か用なのだろうか。
いつも遠目では見ていたこの灰色頭。見た目はヤンキーに近いからか、こんな至近距離で、私の名前を笑顔で言われたら、カツアゲでもされるんじゃないかと体が強ばる。(ヤンキー+笑顔+名前=カツアゲ)

「何?」
「花森さん、いつもここでお花見てるよね」
「え?」
「このお花踏んだ奴、ちょこーっとバコン!しといたから」

低く、優しげな、彼の声。
もふもふしてそうな、柔らかい笑顔。例えるならば、眠そうに横たわるゴマアザラシ。ゴマアザラシを見たことは無いが。
彼はこんな風に話すんだ。彼は私がいつ休み時間にこの花壇広場に来る事を知っていたんだ。
彼は、私の名前を知っていたんだ。
新しい発見ばかり。
そんな事を考えていると、彼はゴマアザラシの笑顔で口を開いた。