「このお方は頑固ですから、別れられないと思います。あと父君が固い人なんで、がんばってくださいね〝婚約〟」

そうそう、別れない……って、え? 婚約? 飛躍してません?
 放心している啓汰君を見ながら、こっちにボソリと

「どうせするなら早い方がいいですよ」

少し、辛そうな顔をしながらそう言った。 え? どうしたの明?
 何でもありませんと何でもないように答えられた。

そして、追い討ちをかけろと言うように肘を突かれた。

「いやなの?」

と下から覗いてみたら、い、そ、そんなわけでは……と、目を逸らされた。
 ナンデ?

明は笑っていた。お腹を抱えて。
 深呼吸をして落ち着いたらしい明が言う

「婚約者を見つけないと、結婚させられてしまうんです。このお方」

お、言ってしまったね。明。
 啓汰君。私は君を離してなんてあげないよ?

「これからよろしくね? 啓汰」

動揺している彼に、そう言うと、深く理解はしていないだろうに頷いた。

うれしくて彼に抱きつくと、抱きしめ返してくれた。強く。

      彼は私の策略の中に

       私は彼の腕の中に

     今、二人の想いが重なった。




これは、幸せの始まりでもあり、苦悩の始まりでもある。