「無になんか……しないよ」
「ここにいること自体、無にしていると思いますが」
震える私の声とは対照的に、皐月さんの声はどこまでも澄んでいて鋭い。
でも……皐月さんに尻込みしてる場合じゃない。
さっきの
『やっと来たか』
って言った相手から……大神様から、ウタクを助け出すんだから。
「ウタクが私にしてくれたこと、無になんかしない。
倍以上にして、包装紙でラッピングしてリボンつけて返してあげる」
「…………」
皐月さんは、私の想いを理解してくれたのか、
それとも言葉の意味がわからずただ呆れているのか、口をつぐんだままだった。
視線は私を捉えたまま。
私もそれに対抗するかのように、じっと見つめ返した。
汗がジワリと流れて、張り詰めた空気が漂う。