「でさ、美咲ってさ、俺のことヒロくんって呼ぶんだぜ?もうかわいいんだよなー」


「もうその話何回も聞いてるんだけど…。」


ハァ…、
思わずため息がでる。


宏樹の話によれば、彼女の美咲ちゃんは半年ほど前に合コンで出会った1つ下の子。

どっちから告ったとかそんな話は聞いていない。


宏樹に彼女ができたと聞いたとき、その瞬間に私は彼が好きだということに気づいたのだ。


気づいた瞬間には失恋なんてこんなバカな話聞いたことない…。


宏樹いわくめちゃくちゃかわいいらしく、私の中での美咲ちゃんもすっかりお人形さんのイメージ。


「ところでハルは相変わらず彼氏できねーの?」


「…ねぇ。それ2~3日前にも聞いてこなかった?」

「いや、確認確認!」


顔はかなり大人びてて背も高く、服も大人びてるくせに、子どもみたくへらへら笑いながら言うこいつのノー天気な頭に、持っていたマンガのはしっこで思いっきり殴ってやった。


「できてません!!!」


「そんな怒ることないだろー!ちょ、どこ行くんだよ!」


「トイレ!大きい方してくる!」


「そんな報告すんなよ!」

パーマがゆるくかかった頭をガシガシかきながら私に突っ込む宏樹を無視して、勢いよく部屋を飛び出した。


なんなんだあいつは!


人の気も知らないで…。


そんなことを思いながらも心の中では自分を褒める。

『今日も大好きな宏樹の幸せな話を泣かずに聞けた』

と。