タクシーを降りて、アパートの階段を上り、一呼吸置いてチャイムを押した。


少し待つと、ガチャリとドアが開く。



「入って。」


顔を覗かせたタカは、何だかご機嫌斜めなご様子だけど。


何かされるのでは、と、おずおずと中に入ったが、でも彼はそんなあたしを見ることもなく、床にいる物体を前に、ひとつため息を落とした。



「…子猫?」


真っ黒の、しかもまだ小さな子猫。


一体何なのかわからず戸惑っているあたしに、



「すぐそこに捨てられててさ。
雨降りそうだったし、何かそのまま放置も出来なくて。」


そこまで言い、けど、とタカはこちらを向いた。



「どうしたら良いのかわかんねぇし。」


要は困っているらしい。


まだ片手で掬い上げられるほどのサイズのそれは、こちらを警戒しながら震えていた。


堪らず胸に抱えると、小さすぎるぬくもりに悲しくさせられる。



「ねぇ、飼うの?」


「………」


「飼う気ないなら、その場しのぎでどうにかしてやろうなんて思わない方が良いよ。」


あたしの言葉に、タカは顔を俯かせて押し黙った。


平気で人にナイフを向ける彼らしからぬ言動だが、その瞳は迷いを帯びていたから、



「まぁ、あとで里親も探せるけどさ。」