久しぶりに日が暮れるより前に家に帰ったけれど、でもここにいたってちっとも落ち着かない。


いや、街の濁った空気の方がまだマシだろう。


西日が射すリビングのテーブルに現金の入った封筒を放り投げ、ため息混じりに煙草を咥えた。


人の気配なんてものはない。


ふと、目に留まったのは、チェストの上に置いてある電話機で、留守電のランプが点滅していた。



『――…お母さんだけど、夏には一度そっちに帰るから、たまには連絡…』


そこまで聞き、消去のボタンを押す。


ピー、と、虚しくも無機質な電子音だけが部屋に響く。



「バッカみたい。」


一体何に向かって吐き捨てたのか。


ただ、自分で零した呟きに、余計に虚しさだけがその場に残る。


短くなった煙草を灰皿になじっていた時、玄関の方からガチャリと扉の開く音が聞こえた。


春樹だった。



「時間通りね。」


嫌味のこもったあたしの言葉にも、彼は眉のひとつも動かさない。


金髪に近い茶色い頭と、会う度に増えている耳のピアス、そして敵意剥き出しな瞳。


世界で一番大嫌いな男。


あたしの、弟だ。



「金は?」