5月も半ばを過ぎた頃、タカのことを考えるのを放棄した脳は、やっぱり画用紙を黒く塗り潰したような色に戻ってしまった。


いや、これで良かったんだ。


脅されて、殺されそうになったのに、そんな男に救いを求めること自体、元々間違っていたのだから。


ただ少しだけ、憂鬱さが重たいだけ。




【暇ならこれから会わない?】

【リサのこと紹介してだって。】

【昨日待ってたのに、どうしたの?】




途切れることなく入ってくるメールも、中身のない関係も、消費してしまえば全ては終わりだ。


辟易すると言いながら、でも一方で出会い系に縋り、あたしの毎日は繰り返される。


右でも左でも、底辺からの眺めはそれほど変わりはないけれど。



「リサ、今日暇でしょ?」


梢はマスカラを重ねながら、鏡越しにあたしを見た。



「あたしこの後あっくんと会うんだけど、リサも一緒においでよ。」


「………」


「てか、大悟くんも来るって言ってたしさ。」


またその話か。


梢はあれ以来、しきりにあたしに、顔も思い出せない男と会えと言ってくる。


面倒なのでいつも適当な理由をつけて断ってはいるけれど、でもいい加減にしてほしいものだ。



「悪いけどあたし、今日は春樹と会わなきゃならない日だから。」