帝王や皇帝を意味する“エンペラー”。


ペンギンやナポレオンじゃないんだから、と、笑うことすら出来なかった。


エンペラーが相当ヤバいのは知ってたけれど、でもまさかヤクザとまで関わってるなんて、思いもしなかった。


そして、それの橋渡しをしているのが、タカ。


つまりはこの街の裏で暗躍しているということだ。


タカがアイツのいる組織と繋がっていただなんて、嫌になるくらいに世間は狭い。


沈黙は重くなる一方だ。



「ねぇ、タカ。」


言い掛けた言葉は、彼の携帯の着信音によって遮られた。


またこれだ。


苦虫を噛み潰すあたしを見ることもなく、タカは取り出したそれの通話ボタンを押す。



「はい、はい、大丈夫です。
じゃあ明日にもでも受け取りに行きます、俺がやりますから。」


金のためなら何だってやる、と言っていた言葉を思い出した。


いつものように短く電話を切った彼は、ため息混じりに顔を俯かせる。



「悪ぃ、仕事入った。」


「良いよ、あたし歩いて帰るし。」


幸い、駅はここからすぐの場所にあるのは知っているし、終電には辛うじて間に合う。


正直今は、これ以上この人と一緒にいて、余計なことに触れられたくはないから。


無言で車を降りた。



「リサ!」


呼び止めようとするタカを無視し、ドアを閉めて車に背を向ける。


どうして意味もなく、こんなにも惨めな気持ちにさせられるのか。


ただ、夜風が堪らなく冷たかった。




それから、タカからの連絡はなくなった。