あたしがお風呂から出た時、タカは険しい顔で誰かと電話をしていた。



「はい、それは俺が処理します。
大丈夫です、上手くやりますから。」


話の内容を探ろうとは思わない。


確かに、気にならないと言えば嘘になるけれど、でも知りたくはないというのが本音だ。


テーブルの上には、無造作に置かれたバタフライナイフ。


あの日、あたしに突き付けていた鈍色の輝きが、そこで静かに存在を主張していた。



「運搬の車、お願いします。
マサキに運ばせますから、はい、いつもの場所で。」


タカの抑揚のない声をこれ以上聞いていたくなくて、テレビのリモコンを手に取った。


画面には、ニュース番組には不似合いな赤い口紅を塗った、アナウンサーの姿。



『――…昨夜未明、S市の宝石店に強盗が入り、盗まれた金品の合計金額は…』


耳を傾けて煙草を咥えた時、



「リサ。」


電話を終えたタカの声に、弾かれたように顔を向けた。


冷たすぎる瞳が落とされる。



「テレビ、消してくんない?」


「…あっ、ごめん…」


反射的に言うと、彼は疲弊した顔でため息を吐き出した。


テレビの音さえ失った沈黙は先ほどよりもずっと重たくて、だから会話の糸口を探そうとしてしまう。


少しの間を置き、タカは困ったように肩をすくめて言った。



「何か飲むだろ?」