倒れていた男を乗せたワンボックスはすぐに走り去り、夜の闇に消えた。


集まっていた男達もまた、それぞれに散る。


取り残されたあたしの腕はリーダー格の男によって掴まれたままで、振り払おうにも敵わない。


上擦った呼吸が荒くなる。



「お前、ケンの女か?」


「ケンって誰よ、あたしはたまたまここ歩いてただけなの!
だから今見たことは誰にも言わないから、お願い、もう離してっ!」


精一杯で声を荒げた瞬間、



「黙れ。」


男の低い声に身がすくむ。


彼はあたしの腕を掴んだまま、ポケットから鈍色に光るものを取り出した。



「アイツはな、冬柴ってヤクザから金借りて、そのまま飛びやがったんだ。」


「…やめっ…」


「だから散々探し回ってたのに、やっと見つけたってところに遭遇するなんて、運が悪ぃ女だな。」


あたしの頬を、ナイフが滑る。


ひどく冷たい瞳の男は、きっと迷いなくあたしを刺してしまうんじゃないかというほど、そこには何の色も映されてはいなかった。


だから背筋が凍りつきそうになる。



「殺されたくなきゃ、乗れ。」


従う以外になかった。


半ば無理やりに男の高級車の助手席へと押し込められ、相変わらず脅しのようにこちらにナイフの刃が向けられている。


これなら死んだ方がマシなのかもしれない。