「お父さん、向こうとこっちを行ったり来たりしてて、大丈夫なの?」


仕事の都合上、それは仕方のないことだけれど。


きっと無理をしているに違いない、最近は2週間に一度、日本に戻ってきてくれている。



「言ったって周りの意見なんか聞かない人でしょ。
それにお父さん自身、春樹のことが心配で堪らないって言ってたからね。」


人は変わるものなのかもしれない。



「お母さんこそ、憧れの外国暮らし捨てて、良かったの?」


嫌味のつもりじゃなかったのだけれど。


でも彼女は一瞬笑顔を曇らせ、ごめんなさいね、とあたしに言った。



「今までお母さん達は、ふたりがどんな想いを抱えていたかにも気付かず、自分達の理想ばかり押し付けていたんだものね。」


お母さんが見た、春樹のアルバム。


黒く塗り潰されたそれによって、やっと自らの過ちに気付いたと言っていた。


5年間の溝は、そう簡単には埋まらない。


けど、でも、変わるきっかけにはなっただろう。



「何を今更母親ぶってるんだ、って春樹に言われたとしても、息子が死ぬことよりはずっと良いわ。」


「………」


「だって命より重いものはないじゃない。」


そうだね、生きているだけで丸儲けだと、誰かが言っていたけれど。


こんな時にいつもふと脳裏をよぎるのは、タカの顔。


一緒に逃げなかったあたしは今、幸せであると言えるのだろうか。


窓の外へと視線を移したあたしに、彼女は、



「リサはどうするの?」