結香さんと別れて自宅に戻ると、リビングからはシチューのあたたかな香りがしていた。


こんなことももう、日常となりつつあるのだから。



「おかえり、リサ。」


「うん、ただいま。」


あたしはまだ“未成年”であり、“子供”だった。


だから結局は、春樹を助けるためには両親に縋る以外にはなかったのだ。


もちろん金銭面も含めて、あたしじゃ何も出来ないから。



「春樹はどうだった?」


「特に変わりないよ。
まぁ、容体は安定してるからって、看護師さんも言ってたし。」


そう、と言ったお母さんは、



「さっきお父さんからも連絡があって、4月から正式にこっちに戻れるようになったらしいから。」


「そっか。」


5年間、一度たりとも日本に戻らなかったお父さんが病気だったと知ったのは、最近のことだ。


てっきり研究室にこもりっ放しで、愛人のひとりでも作って楽しくニューヨークで暮らしているとばかり思っていたけれど。


でも実際は、長時間のフライトは体に障るからと、医師から止められていたらしい。


その事実を知った時には、ひどく驚いた。


今まで何も知らずに恨み続けていた、あたし達。


だからって連絡ひとつ寄越さなかったことに変わりはないが、でももうそれは過去のことだ。


彼は事故後の春樹を目の当たりにし、肩を震わせ涙を流していた。


その姿だけは、今も忘れられないから。