「シロもうちで元気にしてるし、心配しないで。」


あの事件の後、タカの部屋は見事に何者かによって荒らされていた。


そこで小さくなって隠れるように身を震わせていたシロは今、結香さんの部屋で育ててもらっている。


だってどうせ、うちのマンションでは飼ってはあげられないから。



「それにあたし自身、シロがいてくれて、気持ちの面でも随分楽になってるから。」


苦笑いを浮かべた結香さんの顔が見られなかった。


呼べばまだ、タカや道明さんが来てくれるような錯覚さえ起こしてしまう。


けれどあたしは泣くべきじゃない。



「結香さん、知りたくないんですか?」


「え?」


「道明さんが最後のあの日、結香さんに伝えようと思ってた言葉。」


好きだと言っていた、彼の気持ち。


でも、結香さんは首を横に振って見せた。



「他の人から聞いたって、何の意味もないよ。」


もしかしたら彼女は、気付いていたのかもしれないけれど。



「それよりリサこそ、少しは生活落ち着いた?」


「あー、どうですかね。」


未だに学校には行けず、毎日が家と病院の往復だ。


今日こそ春樹の意識が戻るのでは、と思いながらも、本当は誰かと会ったりすることが嫌なだけかもしれないけれど。


とにかくまだ、口で言うよりずっと、負った傷はあたしの中に今も根深く残ったままなのだろう。



「でも、ご両親もこっちに戻ってきてるんでしょ?」