気付けばあの事件から一ヶ月以上が過ぎて、世間はクリスマスを迎えようとしていた。


吐き出した吐息は白く昇る。


道明さんは死んだ。


遺体には5発の弾痕があり、ほぼ即死だったらしい。


堀内組の末端の人間が逮捕されたと報道されたが、その後どうなったのかなんてわからない。


結香さんは遺体を確認することを最後まで拒み続け、葬儀に参列することもなかった。



「久保さんとさよならなんてしたくないもの。」


涙を見たのは、あの日限り。


彼女はどこまでも気丈な人であり続けたのだ。


道明さんは今、アイさんと同じ場所で、何を想っているだろう。


そして今日も意識の戻らない春樹は一般病棟に移され、あたしの願いも虚しく、半年間このままなら、回復の見込みはほぼゼロに近いと言われた。


けれど、自発呼吸もあり、脳死ではないから、望みが消えたわけではない。


面会時間を終えた帰り道、あたしはカフェで待ち合わせている人の元へと急いだ。



「結香さん!」


呼び掛けに気付いて手を振ってくれた彼女は、



「恋人もいないのにクリスマス前にこんな場所に来て、場違いで嫌になるよ。」


思わず笑ってしまい、あたしはその向かいへと腰を降ろしてから、コーヒーだけを注文した。


あれほど危ないと言われていた街ももう、事件のことを忘れたように賑わっている。



「リサ、警察の人が言っていたこと、聞いたよね?」


「どの話ですか?」


ジングルベルが流れる店内で、結香さんは声を潜め、



「港であがった遺体がタカさんだった、ってやつ。」