廃墟ビルの2階の一番奥の部屋で、タカはうずくまるようにして身を潜めていた。


その姿を見つけた時、涙を流しながらあたしは、縋るように抱き付いていた。


衣服にべったりとこびり付いた鮮血。


それが誰のものであるかなんて、聞くまでもないのかもしれないけれど。



「タカ!」


タカはあたしを強く抱き締める。


その腕は震えていて、胸元にある揃いのリングが鈍く輝く。



「一緒に逃げよう、リサ。」


「……え?」


「お前のことは俺が守ってやるから、だからついてきてほしい。」


けれど、ふと脳裏をよぎったのは、春樹の顔だった。


それはあたしの答えだったのかもしれない。


一瞬躊躇いを見せたあたしに、タカはふっと笑い掛け、



「なんてな。」


零れる涙を拭ってくれた。



「大事なものを残してまで、俺はお前を連れて行くことは出来ねぇよ。」


「違うの、そうじゃない!」


声を上げたあたしの言葉を遮り、タカは、



「聞けよ、リサ。
俺はもう十分なんだよ。」


「…何、言って…」


「お前と過ごしたこの一年にも満たない時間、すげぇ幸せだったから、それで良いんだ。」