「おう、結香。
後のこと頼んだからな。」


彼は片手を上げ、じゃあな、と車を走らせた。


あたしはそれを見送りながら、顔を俯かせることしか出来ずにいると、



「事情は何となく聞いてるから。」


結香さんは言う。



「安易なことなんて言うべきじゃないんだろうけど、でも久保さんが大丈夫って言ったら、大体のことは大丈夫なもんだよ。」


「そうですね。」


結香さんと道明さんの間にある、信頼関係。


こんな時ではあるけれど、でもそんな小さなことが嬉しく思えた。



「あたしね、リサには怒られるかもしれないけど、さっき久保さんから電話もらえて嬉しかったんだ。」


「え?」


「お前にしか頼れねぇから、って言われて。
不謹慎だってわかってても、まだ望みあるのかも、って思っちゃって。」


馬鹿でしょ、と彼女は笑う。


けど道明さん、結香さんのこと好きだって言ってたよ。


なんてことは口には出来ないけれど、でもふたりが想い合っている姿に、あたしまで心があたたかくなっていく。


きっと幸せは、すぐそこまで来ているはずだ。



「道明さんは嘘なんかつかない人ですよ。」


顔をほころばせた結香さんは可愛い。


タカは今、どうしているだろうかと、不安にならないわけではない。


けれど、案じることばかりが最善ではないから。